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2025.11.21

身体の一部となったハイネルが叶える、自律した在宅勤務と質の高い日常

お客様の要望自分で姿勢を調整することで臀部の痛みを解消したい
障害名デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
車種ハイネル×F3 Corpus(ペルモビール)
機能電動姿勢変換 7機能搭載
付属品軽量ジョイスティック,モニター,2入力式セレクター,軽量スイッチ

ハイネルを導入して3年が経過したA.M.様(以降 A様)30代・男性は、筋ジストロフィー症と向き合いながら、在宅勤務で活躍されています。ハイネルは導入後、身体にしっくりと馴染むまで時間を要しましたが、現在ではA様の「身体の一部」となっています。仕事や趣味にハイネルを駆使し、年に数度の遠出や旅行も楽しまれています。

今回、ハイネル導入の経緯から3年間の変化について、ご本人様と、日常生活を共にされているお父様から貴重なお話を伺いました。

A様とお父様

導入前の状況と課題:悪化する痛みと、家族の心理的・身体的負担

A様が抱えていた当時の課題

以前の車椅子(QUANTUM社のJAZZY600とC300)は経年による劣化とメンテナンスの問題を抱えていました。さらにクッションの不安定さから臀部の痛みが悪化。日常生活を共にするご家族(ご両親)の介護負担も増し、親子双方に心理的な余裕がなくなっていました。

ご本人

ハイネル導入前 2013年夏、12年過ごした米国から東京に戻り、新しい車椅子を作成しましたが、特にどういった車椅子にするか考えもせず国の支給制度の額内で納められるペルモービル社のC300を購入しました。車椅子業者は区が定めた業者になりましたが、あまり良い関係を築けず、当初から修理依頼の連絡が滞ることが多く、苦労しました。遠方の業者ということもあり、心の距離感に加え、地理的な距離間もありました。実際、2017年以降、今日まで音信不通になっています。C300は主に外出用機として利用しました。(屋内はアメリカで2010年から使用していたQUANTUM社のJAZZY600を使用)しかし経年により劣化もあり、何度か輸入業者に頼りバッテリーなどを交換したものの、輸入業者の閉鎖により道が絶たれ、C300を屋内外問わずメイン機で使用し始めました。

引き続きC300を使用していましたが、クッションの不安定さと体の変化により年々臀部の痛みが特に多く出るようになり、作り変えが必要と訪問リハビリスタッフや通院先(国立精神神経センター、以降=病院)のリハビリスタッフから提案がありました。

お父様

導入前 …時間の経過とともに、本人も車椅子に乗った際に姿勢変換を求めることが増え、特に臀部の減圧のために姿勢を前後左右に動かしてほしいという要望の発生頻度は極めて多く、結果的に親の家族介護の負担が高まっていました

また、その頃は、まだ障害者雇用促進法による行政による就業時間中の身体介護サポートが、我々が住む居住地行政区では認められておらず、当時既に企業に在宅勤務していた息子の介護サポートは、日中の就業時間中は勿論、夜の就寝前まで、その多くは親が行うことが必要でした。それが原因で、親子関係が悪くなったとまでは言わないものの、繰り返し、介助のために親は自身がしている作業を中断して対応する必要があり、親としても身体的以上に、心理的にも余裕もなく大変で、息子には直接言わないにしても、「またか?」という雰囲気が顔と態度に出ていたと思います。

ハイネル導入の決意と実現への道のり

自律を求め、困難を乗り越えた製作過程

新しい車椅子検討の際、通院先で「自分で体位変換できる」ハイネルの存在を知り導入を決意。その実現には、高機能ゆえの行政からの助成金許可という難関がありましたが、介護記録の提出などを通じてハイネルの必要性を訴え、無事導入へと進みました。

初めて試乗したときの様子
ご本人

ハイネル導入のきっかけ …新しい車椅子の導入に向け動き出しました。その折2021年初頭に病院でP5(現・ハイネル)の存在を知り、興味が湧きました。試乗できるよう病院のPTに相談し、コボリンに連絡し、年内に試乗。一目で気に入り、助成金も込みで購入することにしました。

製作の過程 初顔合わせ(2021年3月15日)から病院の意見書作成、助成金申請、院内での仮合わせや細部調整、最終審査も含め納入までおよそ1年半かかりました。調整では特に上半身のシーティングに時間がかかりました。将来の体の状態をイメージしながらの調整のため、一筋縄ではいきません。脇部分のパッドの具合なども細かく見ていただきました。リハビリスタッフの同席のもと、細かい調整など丁寧に対応いただき、ついに2022年8月に無事完成しました。

お父様

ハイネル導入のきっかけ …息子本人が自分の思うように体位変換出来るハイネルの存在を初めて教えていただきました。日頃から息子の介護に相当のエネルギーを使っていた身として、素直にこれは使えるかも、と思えました。

息子自身も、それまでは親に頼っていた様々な体位変換が、自身の思うように出来ることを知って、是非使ってみたいと思ってくれたことも、導入を真剣に考えるきっかけとなりました。

一方、ハイネルを手に入れるための難関は価格と行政からの許可でした。前者は、本人用の自家用新車を買うと思えば良いと納得できましたが、後者は、そもそも行政がそうした高度な機能を持つ車椅子を製作することを許可するのか、その課題をクリアすることが最大の難関でした。

行政の説得に向けては、車椅子製作の許可を得るための医師診断書の補足資料として、日常、親が息子の介護に掛けている行為の種類や回数、時間を記録したレポートを作成し提出しました。その中で、ハイネルは、日中の身体機能の維持保全は勿論のこと、在宅就業を自身の力で行うために必要な機能であり、加えて、同居する親の負担軽減にも資する車椅子であると訴えることで、行政の理解も得られ、ようやくハイネルを手に入れる準備ができました。

操作をしやすくするためのパッド製作
右手周りで運転も姿勢変換もすべて操作

導入後の大きな変化:日常の快適性と身体の自律

「会心の一撃」で実現した理想の車椅子

導入当初は慣れずに苦労した時期もありましたが、クッションの調整で臀部の痛みが劇的に改善。「理想の車椅子」として、今では1日12時間以上、A様の生活を支えています。ご本人の力で細やかな姿勢制御ができるようになったことで、様々な動作をサポートしています。

ご本人

3年使用して 導入当初は慣れるのに一苦労しました。試乗や短期間の使用だけではやはり分からないもので、臀部の痛みも改善は少々したものの、「あまり前と変わらないんじゃないか…」と一抹の不安がありました。しまいにはC300に戻るほどでした。そんな中、クッションの種類など色々試していた同年11月に浅見さんの提案でJ2クッション内部の調整(ゲルの位置を中央で固定)で完全に状況が改善し、痛みも大きく減りました。クッションの調整は会心の一撃となり、ついに理想的な車椅子になったと実感しました。それからおよそ3年が経ち、いくつか修理もあったものの、問題なく使用できています。とにかく自分で自由かつ小刻みに座位や体位を変更できるのが良いです。家族の負担も減り、煩わしい気遣いも減りまさに一石二鳥です。ただスイッチ部分が若干脆く、修理は多いです。ただプラグインと部品を入れ替えるのみと大掛かりな修理ではないのが安心です。

一日の生活 就寝時と入浴・排泄以外は常時乗っています。毎日12時間以上、ハイネルを駆使しつつ仕事(月~金:9AM~4PM勤務)、食事、ゲーム、テレビ鑑賞、その他など行っています。外出時も使用し、最近の遠出となると2025年5月末に広島へ家族旅行に行きました。(車椅子のまま新幹線、カープ戦観戦、フェリー→厳島神社)臀部の痛みが出る際にはハイネルを使用しています。(上下を最大限上昇させ、背もたれを最大限上昇させ、臀部を浮かす。)ハイネルのスイッチに触れられる時(仕事中など手がふさがっていない時)はほぼほぼ常に動かしており、ほぼ癖のようになっています。ハイネルのスイッチは便宜上ジョイスティック右端に置いており、人差し指でリクライニングしつつ中指でハイネルを使う上等テクニックも可能です。外出頻度にもよりますが、大体バッテリーは2日に一回夜間に充電させています。

筋ジストロフィー症とハイネル 痰を出すとき、咳の力が弱いため車椅子上でカフアシストを使用します。ハイネルではリクライニングと背もたれ上昇機能を目一杯にし、体を仰向けに反らしながらカフアシストを使用することで楽な姿勢で咳き込めることができます。さらに車椅子上で人工呼吸器を使用する時も体を反らすることでベッド上と同じような感覚で休息できます。また、食事中に食べ物の飲み込みに気を使うため、ハイネルのリクライニングや左右の回旋で体を動かしながら咀嚼し飲み込むことで安定した食事が採れるようになりました

臀部の痛みを逃すため、座クッションを調整
姿勢変換(ハイネル)用スイッチ
ご自宅で休憩する様子

ご家族の感想:親子の関係性改善と心の余裕

ハイネルがもたらした、介護負担の軽減と対等な関係

ハイネル導入は、単なる体のサポートに留まらず、介護負担の激減を通じて、親子関係に心の余裕と「対等さ」を取り戻すという、最も大きな価値をもたらしました。これは、A様が「一人の成人として生きていく大きな力」となっています。

お父様

ハイネルを導入して見られた変化 導入して以降は、導入を検討した頃の思いが、まさに実現し、実際に親として日常の介護作業が激減しました。その結果、親側も心の余裕が出来て、無意識に、息子に優しく出来るようになったと思います。また、息子自身が、自分の心地よい姿勢を自ら作ることで、息子も親に対する負担感や申し訳なさが、著しく軽減したと思われ、その結果、お互いが対等に向き合えるきっかけを作ってくれたように思います。

息子は、現在、昔から大好きだったゲームコンテンツ製作販売企業グループの一員として、日々楽しく仕事とプライベートの時間を過ごしていますが、その背景には、自身で自分の好きな姿勢を取れると言う、健常者にとっては当たり前のことを、ハイネルを使うことで実現できていることが、一人の成人として生きていく大きな力になっていることは間違いなく、それを側で見ることが出来ることは、親としても大きな喜びとなっています。

車いすで西武新宿線に乗る様子
在宅勤務の様子

最後に

A様はハイネルにより、在宅勤務を高い集中力で続けられるだけでなく、年に数度の遠出や旅行といった活動的な生活を送れるようになりました。納入後も調整とメンテナンスを続け、A様の日常を支え続けていきたいと思っております。

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